めじるし。

右側の、ふたつめの星を朝までまっすぐ。

たとえ「ライブラリー」にいなくても。あるいは、変化する「未来の中」で。 ―「専門図書館の将来像を考える-日本と米国の視点から見たこれからの専門図書館」の感想

とっても今更感が漂うけれど、2012年11月22日に開催された第14回図書館総合展の専図協のフォーラムの感想を・・・。
なぜなら、最近、この日の内容を復習する機会があったもので。
http://instagr.am/p/SUChRTje58/

専図協のウェブ↓によれば当日の入場者数は152 人ということですが、あんまりこのフォーラムの感想ってウェブでみかけなかったなぁ、というのもあり。
http://www.jsla.or.jp/1/20/doc2012/index.html
”フォーラムの詳細報告は機関誌専門図書館』258号(2013年3月末刊行予定)に収録します。”とのことですので、あと1ヶ月くらいしたら講演内容も誌上で公開されると思いますが。


そういえばプロフィールとかになんにも書いてなかったけど、私は専門図書館につとめています・・・。
なので専門図書館員のはしくれとしてウェブのすみっこに感想くらい残しておこうかなぁ、と。


何より、アメリカのSpecial Librarianshipの状況についてのお話はなかなか刺激的でおもしろかったのでした。


2012年は専図協(JSLA)の60周年記念ということもあって、アメリカからSLA(Special Libaray Association)の2012プレジデントBrent Mai氏がいらして基調講演をしてくださいました。

テーマは「これからの専門図書館、情報専門家の仕事」ということで、専門図書館職(special librarianship)の将来像と、情報専門家たちのニーズに取り組んでいるSLAの最近の戦略についてのお話でした。


●ライブラリアンとは何をするひとたちか?そしてどこで仕事をしているのか?


まず、将来像について語られる前にMai氏が触れたのは、「Librarian」という肩書きとその仕事について。

これは、そもそもが「Library」から来てる単語だし、北米では「ライブラリアン」という響きはすごくトラディショナル(つまり古くさい感じがするってことでしょうね)で、本だけしか扱わないようなイメージにとらえられる、そして、この単語で一般の人が思い浮かべるのは公共図書館や学校、大学図書館みたいな教育に関係する部門の職業だけど、実際の私たちの仕事は「本」以外の情報もすごく扱っているし、特に専門図書館(企業とか、組織・団体、研究機関とか)では、一般の人のイメージする「ライブラリアン」とは全く違う仕事をしていることも多い・・・。


そもそも、企業などでは資料の電子化に伴って「図書館」や「情報センター」と呼ばれる物理的な場所自体が消滅してしまっていることもままある。


でも、私たちは、やはり企業に雇用され続けていて、ライブラリアンと呼ばれていたころから基本的には変わらない―情報を収集し、整理し、分析し、管理し、その場所を示し、求める人に提供する、という仕事をしている。

スライドに、実際のSLA会員たちの持っている肩書きをだーーーっと列挙したものが写し出されたけれどData InformationKnowledgeResearchなどの単語が目につきました。

そういう風に、扱う内容が従来のトラディショナルなLibrary(の持つイメージ?)を超えた領域になっているため、彼らは今ではLibrarianよりもより幅広い概念を扱うことのできる呼称としてInfoPro(Information Professional)という言葉を使うようになっているそうです。


ライブラリアンをそのまま日本語にしたら「司書」とか「図書館員」とかだけど、これにも同様「図書館」=建物とか「書」=本とかっていう単語が入ってるし、状況は北米と変わらないなあ。


日本でもINFOSTAとかではサーチャーを意識していたせいか(?)結構前からインフォプロって使っていたイメージだけど、それほど世間に浸透しているという気はしない・・・。
あんまり日本の図書館業界の人が普段自分のこと「インフォプロ」って呼ぶの聞いたことないし。。。*1
そういえば、情報管理で「インフォプロって何だ?」っていう連載*2があったなぁ、と思って見に行ってみたら、ちょうど先月号で最終回を迎えていた・・・・・!(・・;)

ともあれ、この連載の執筆者の方々は企業の情報に関する部署(知財、特許や研究開発とか)にお勤めの方が多い!(サーチャー時代の経験とかを書いている方も。)
職種的な肩書きこそ書いていないけど、所属先の部署名とかみてると「図書館」ってついている人はあんまりいないし、けっこう北米の状況に近いのかしら?

ちょっと話がそれましたが。

つまり、社会の変化で「図書館」っていう物理的な場所はなくなっても、昔から、私たちのやっている仕事は基本的には、情報と人を仲介する仕事よね?ということですね。

そして、David Shumaker 氏の著書「The Embedded Librarian」を挙げ、いまや、ライブラリアンは「図書館」や「情報センター」のように、資料やライブラリアンとしての同僚がいる「物理的な場所」に集まって仕事をするのではなく、いろんな部署やワーキンググループなどに、文字通り「embedded(埋め込まれて)」働いているという話になり。

embedded librarianって、初めて聞いたのは2年くらい前なんだけど、中国の研究機関で分野ごとにライブラリアンをはりつけてるっていう話とか、アメリカの大学でコースの中に埋め込まれているとかっていう話だったし、なんとなく、リエゾンライブラリアンの発展型っぽい感じなのかな~?なんて思っていたけど、専門図書館(特に企業の)においては(?)どうやらちょっと趣が違うようですね!
おもしろい。この本読んでみたいかも。

The Embedded Librarian: Innovative Strategies for Taking Knowledge Where It's Needed

The Embedded Librarian: Innovative Strategies for Taking Knowledge Where It's Needed


そういえばカレントアウェアネスでもこんな紹介があったんだった!

CA1751 - 動向レビュー:「エンベディッド・ライブラリアン」:図書館サービスモデルの米国における動向 / 鎌田 均
http://current.ndl.go.jp/ca1751


概要は上記のCAも参照していただくとして。
そんな風に、私たちをとりまく状況は、日々進歩し発展している情報技術や社会のあり方に伴って変わっているけれど、そういう変化にあわせて図書館自体が変わっていかなくてはいけないということは、今更言うまでもなく、前々からずっと言われていたことだと、SLAの創設者の言葉を引いていました。


そうね。インド図書館の父たるランガナータンも"A library is growing organism."って言ってたしね。
図書館情報センター経営論でも、「環境のマネジメント」って習ったしね。 組織は環境が変わったらそれに合わせて変化する必要があるって。

まあ、この場合、図書館という物理的場所自体がなくなっているという話もあるので、変わらなきゃいけないのはそこで働いて情報やサービスを提供している私たち自身、ということになるでしょうか。


そんなこんなで、環境や、肩書きや働く場所が変わっても、私たちの職業の本質は変わらないよね?と確認したところからSLAの将来戦略のお話へ。



●2011年:Future Readyから2012年:Future Nowへ!


2011年のSLAプレジデントの発案で、「未来への備え」をテーマに2011年の元旦から大晦日まで毎日更新されたブログと、SLAの会員たちのニーズに基づいた戦略的変更について。
"Future Ready" つまり、来たるべき「未来」(それはきっと前述のような私たちを取り巻く社会の変化を意識しての)に対して準備OKな状態でいなくちゃ!ってことですよね。

SLA’s Future Ready 365 Blog
http://futureready365.sla.org

このブログはまだ残されていて、aboutというところをクリックするとWhat is Future Ready?という解説↓があります。

What is Future Ready?

It’s an attitude of being more adaptable, flexible, and confident in utilizing the skills of the information & knowledge professional.

It’s a strategic shift toward being more effective at aligning with emerging and robust opportunities in the information industry and beyond.

It’s a focus on preparing ourselves for emerging opportunities in the information industry through:
1.Collaboration to accelerate the availability of useful information
2.An adaptable skill set that anticipates and responds to the evolving marketplace
3.Alignment with the language and values of the community you serve
4.Building a community that connects stakeholders in mutually beneficial relationships

仮に訳してみると、こんな感じかな?

未来への備えとは?


それは、より順応性を持ち、柔軟で、そして情報と知識の専門家としてのスキルを活用することに自信を持っているという「姿勢」のことです。


それは、情報産業やそれを超えた新しく強力な機会と手を組んで、より効果的であることを目指す戦略的転換です。


それは以下のことを通して情報産業における新たな機会のために私たち自身の準備を整えることに焦点を絞っています。
1.有用な情報の利用可能性向上を促進するためのコラボレーション
2.進化している市場を予測してそれに応える順応性のある一連のスキル
3.あなたがサービスするコミュニティの使う言葉や価値観に寄り添うこと
4.互恵的関係の中で利害関係者とつながるコミュニティを構築すること

つまり、自分の持ってるスキルを新しい環境に合わせて発揮できるように、今までになかったような新しいことでも柔軟に順応性を持って取り込んでいけるような姿勢を持つことが大事、っていうことでしょうか。それから自信を持っている態度!

柔軟性とか順応性
これってとても重要な気がします。だって、日本のこの業界ってわりと新陳代謝が悪いイメージがあるんですもの・・・。一部を除いて。

あと、コラボレーションとか、自分のサービス対象の人たちが使う用語や価値観にあわせるとか、Win-Winな関係のコミュニティ作るとか。
閉じられた業界の中だけを見るんじゃなくて、今、私たちの助けを必要としてるコミュニティに寄り添っていくことも重要だなぁ、と。

だんだん長くなってきた(^^;ので、ちょっと後半はしょりますが、SLAの提供している会員サービスとして「Click-U」というe-Learningのリソースがあります
その中でFuture Readyツールキットという教材?も提供されているようです。

Future Ready Toolkit (利用は会員向け)
http://www.sla.org/content/resources/toolkit/index.cfm

これは、会員専用だけど、日本の専図協を通して利用できるらしいです。*3
所属機関が専図協の会員機関だったら、IDとパスワードがもらえるのかしら?
まだ試してみていませんが。

でも、このツールキットだけじゃなくて「Click-U」(UはUniversityのU)ではすごく魅力的なリソースがたくさんで。
これを利用しない手はないんじゃないかと思います!!
キャリアアップのためのいろんな機会が提供されているし、新しいウェブ2.0的なソフトを実際に(オンラインで)触って試してみることもできたりとか。

印象的だったのは、日本の専図協は主に「機関」会員を対象としている*4けど、SLAはインフォプロ個人を対象としているということ。
だから、戦略も個人のキャリアアップとか専門職たるひとたちに必要とされること、ニーズをすごく意識しているんだなあと感じました。

確か、質疑応答で「日本の専門図書館(に限らないかもしれないけど?)ではアウトソースが進んでいて・・・」みたいな話から、SLAは専門職を対象としているけど、専門職でない図書館スタッフの団体も北米にはある、というお話がありました。(うろ覚えだけど。)それはそれで興味深いかもしれない。


そして将来戦略の話の続き。

ACRL 2012 top ten trends in academic libraries (2012年6月)
http://crln.acrl.org/content/73/6/311.full

ACRLの上記の記事から、そのうち下記の5つを特に取り上げていました。

1. Data Curation
2. Digital Preservation
3. Information Technology
4. Mobile Environments
5. User Behavior and Expectations

これも、なんとなくCAにのってそうだなぁ、と思って検索してみたらありました。
E1306 - 2012年,大学・研究図書館の10のトレンド
http://current.ndl.go.jp/e1306
さすが!

でも、このフォーラムの講演ではトップテンのうち、SLAの将来戦略に絡むものとして前述の5つを抜き出していました。

1,2あたりは企業内の情報をどうやって(特にデジタルで)活用するか、っていう話であり、もともと「ナレッジマネジメント」って言って専門図書館員たちがやっていたことでもある。そして、デジタルデータの管理(これは、検索したり、保存してるものをどうやって再度取り出すかも含む)っていうのも、私たちみたいな知識やスキルを持ってる人の活躍できる分野である、と。

モバイル環境っていうのは、ユーザの望むものを、望むときに、望む場所に届けるための技術のひとつであり、元々そういうことを意識してサービスしていた(利用者行動を意識して、その期待に応える、みたいなね。)し、モバイル技術の発達でそのための新しい方法ができた!っていうだけのことだけど、でも「モバイルであること」の概念がスペシャルライブラリアンシップの将来へもたらす別の側面もある、と。

それはつまり、私たち自身がかつて働いていた物理的な環境に、もはや縛られないということ。


話は実際の講演の流れと前後するんだけれど、そんなこんなで、2011年は「未来」に対して準備しなくては!というテーマだったけど、Future Readyというテーマで書かれたブログの内容をみると、だいたいが、すでにどこかで実践されていることであり・・・
つまり、そこで言われている「未来」とは「今」なのである、ということから、2012年のプレジデントとして、マイ氏が掲げたテーマは「Future Now: Operation agility」というものでした。

未来っていうけど、すでにそんなの到来しているよ!と。
それに対する「敏捷作戦」とは・・・機敏に、すばやく新しい技術や流れに適応し、新しい考えを受け入れることに寛容であることが重要、というようなお話でした。


専門図書館員の将来は明るい・・・?


エンベデッド・ライブラリアンの話や、モバイル技術の話、そして肩書きの話にもつながるけれど、伝統的、物理的「図書館」や「ライブラリアン」という呼称にこだわらなければ、私たちのもっている技術や私たちならではの仕事は今こそ役に立つものであり。

情報と人を仲介する仕事は、それこそIT技術にとってかわられるのではないか、という考えもあるけれど、逆にたくさんの情報の中から、どれが重要で、必要なのはどれなのか?っていうのを見分けるのにも、私たちの持っている知識やスキルは役に立つものである、と。

そして、コンピュータ、データベースやウェブ、デジタル・データなんかについても専門的なスキルを持っている。

そんな専門図書館員の未来は明るい、ときっぱり言い切っていたのがすごく印象的でした。

しかも、アメリカの労働統計局によれば、ライブラリアン(広義にとらえた)の雇用は今後10年で8%伸びる、と予測されているというではないですか!
特に企業や、非営利組織、コンサルティング会社などで、そういったスキルが期待されていると・・・。


この話を聞いて、私はうぅむ・・・と唸ってしまったのですが。。。


だって、時代の要請や持っているスキルについてはその通りだと思うけど、日本の現状と照らし合わせると。。。

この講演の後、日本の専図協の60年の歴史についての講演があったんだけど、なんだか切なくなるヒストリーで。。。

専図協って今は東京商工会議所と強い関係があるから、ビジネス系のニーズから生まれたのかと思っていたけれど、最初は事務局も国立国会図書館内にあった、とか、地区協議会の発祥は関西から*5、とか、意外な歴史もわかって面白いところもあったんだけど、会員数の推移も半分近くまで減っているし、なんだか、「未来は明るい」って信じるのが難しいな・・・っていう気分になってちょっぴり落ち込みました。。。

せっかくの60周年記念なんだから、もうちょっと明るい方向に持っていってくれたらよかったのに><。


しかし、なんだかデジャブ的に、前にもこんなことがあった気がする・・・と思いだしてみたところ・・・
やっぱり専図協がSLAと初のジョイントミーティングを開いた時の講演だったと思うんだけど、アメリカでは、専門図書館員が新卒学生の憧れの職業で上位に入っているという話をきいて「ほぅ・・・!」と思ったんだけど。
当時は私も就職してから間もなかったので、この話を純粋に聞いて、アメリカの専門図書館すごいなぁ!いいなぁ!日本でも憧れの職業って言われたらいいのにな!と思ったんだけれど。

日本じゃそうはいかないのはなんでかって考えたら、やっぱり、そういう条件での採用があんまりでないからじゃないかなぁ・・・って。

専門図書館て、やっぱり花形は企業の資料室とかじゃないかと思うんだけど、日本じゃワンパーソンとかが多くなっていて。
さらにいうと、普通の企業の場合、日本じゃ「総合職」とか「一般職」での採用がほとんどだから、そういうスキルを持った人を特に募集してるっていう状況があまりないんじゃないかなぁ・・・って。

でも、やっぱり、日本でも現代社会では情報の重要性は高まっていて、それをうまく扱うスキルをもっている人たちが活躍できる場があるのは間違いないと思う。

そういうターゲットに、どうやって働きかけていけばいいのかなぁ?

日米の視点から、将来像を考える、っていうフォーラムのタイトルだったけど、日本の視点はあまり見えてきませんでした。
ちょっと消化不良になったけど、でも、アメリカの話では目からうろこがおちたりしたし、本当にその通りだと思ったので、印象に残ったところを中心に書き残してみました。

個人的には、フレッシュな時代の希望に満ちた考え方から、少し世の中斜めにみちゃう癖がつきはじめた今日この頃ですが・・・新しい考えを柔軟に取り入れて、ユーザーの期待に応えられるような心構えを忘れずにいたい、と思いました。

日本でも、「図書館」の殻をやぶって活躍する若い情報のプロフェッショナル達が、これから現れてくれたらいいんだけど。。。そして一緒に専門図書館界を盛り上げていけたらいいなぁ・・・と思います。。。

ちょっぴり湿っぽくなったけれど・・・(^^;
まあ、私たちが学んできたことや、持っている技術はやっぱり今の時代でも捨てたものじゃないな!ということが実感できたことはひとつ収穫でした。
でも、どんどん技術は進歩して行って、あっという間に未来がやってきてしまうので、日々自己研鑽を欠かさずに、進歩から取り残されないようについていかないと・・・!

そんなこんなで、とりあえず、専図協の会員機関に所属している方はぜひ、SLAのClick-Uを活用してみるといいと思います☆

*1:そもそも現場デビューしたのがもはやエンドユーザが自分で検索する時代だったので、学部時代にサーチャーの資格はとったんだけど、サーチャーって呼ばれる人たちにもあんまりあったことがない。

*2:http://johokanri.jp/journal/suggested/category-infopro/

*3:おそらく、JSLAのウェブサイト2012/11/22 付けの新着情報にある” 【会員限定】SLA eラーニング教材を公開しました”っていうのがそれかなあ?と。

*4:個人会員にもなれるはずだけど、事業内容は研修事業以外そんなに個人向け意識してないよね?

*5:追記。私のメモが正しければ地区協議会の流れは関西→関東→中部→九州→北海道→東北→中国、という順番。